「腰を痛めたきっかけはもう覚えていないのに、何年も痛みが続いている」
「病院で検査を受けても、痛みを十分に説明できるような大きな異常はないと言われた」
「調子の良い日と悪い日の差が大きい」
このような慢性腰痛に悩んでいる方は少なくありません。
腰痛というと、
「筋肉が硬いから」
「関節が悪いから」
「姿勢が悪いから」
と考えられがちです。
もちろん、筋肉や関節、腰椎など身体の組織が痛みに関係していることはあります。
しかし、長く続く腰痛の中には、腰の状態だけでは痛みの強さを十分に説明できないケースもあります。そこで近年注目されている考え方の一つが、
「痛覚変調性疼痛(つうかくへんちょうせいとうつう)」
です。
今回は少し難しいこの言葉を、慢性腰痛との関係を中心に、できるだけ分かりやすくお伝えします。
痛みにはいくつかのタイプがあります
痛みは、すべて同じ仕組みで起こるわけではありません。
現在、痛みの仕組みは大きく分けて次のように考えられています。
1.侵害受容性疼痛
捻挫、炎症、ケガなどによって身体の組織に刺激が加わり、痛みを感じるものです。
例えば足首を捻った直後の痛みなどがイメージしやすいでしょう。
2.神経障害性疼痛
神経そのものの病変や、障害によって起こる痛みです。
しびれや電気が走るような痛み、などを伴うことがあります。
3.痛覚変調性疼痛
組織の損傷や神経の障害だけでは、痛みの強さや広がりを十分に説明できず、痛みを感じる仕組みそのものに変化が起きていると考えられる痛みです。
慢性腰痛では、これらの仕組みが一つだけ存在するとは限りません。
例えば、
筋肉や関節からの痛み+痛みを感じやすくなっている状態
が重なっているケースもあります。
「痛みがある=そこが壊れている」とは限りません
痛みは身体を守るために必要な警告システムです。
例えば、熱いものに触れた瞬間に手を引っ込めることができるのも、身体が危険を察知しているからです。
通常は、身体への負担が減って組織の状態が落ち着いてくると、痛みも徐々に小さくなっていきます。
ところが、痛みが長期間続くと、
実際の身体への刺激以上に痛みを強く感じやすくなることがあります。
これは、
「気のせい」
「我慢が足りない」
という意味ではありません。
痛みは脳や脊髄を含む神経系で処理されるため、長期間痛みが続くことで、その仕組みに変化が生じることがあると考えられています。
痛覚変調性疼痛と「中枢性感作」
痛覚変調性疼痛を調べると、
「中枢性感作」
という言葉を目にすることがあります。中枢性感作とは、簡単にいうと、脳や脊髄などの中枢神経系が刺激に対して敏感になり、痛みを感じやすくなっている状態を表す概念です。
例えば、以前ならほとんど気にならなかった刺激でも、
「痛い」
「つらい」
と感じやすくなることがあります。
ただし、痛覚変調性疼痛と中枢感作は、全く同じ意味ではありません。
痛覚変調性疼痛は痛みの仕組みを分類するための概念であり、中枢性感作はその背景に関係すると考えられている仕組みの一つです。
まだ十分に解明されていない部分もあり、
「この症状があれば中枢性感作」
と単純に判断できるものではありません。
痛覚変調性疼痛では、どのような特徴がみられることがある?
痛覚変調性疼痛が関係するケースでは、
・痛みが長期間続いている
・痛む範囲が広い
・痛む場所が日によって変わる
・身体への刺激に敏感になっている
・疲労感が強い
・睡眠の状態が良くない
・痛むことへの不安が強い
・動くことを怖く感じる
などがみられることがあります。
ただし、これらに当てはまるからといって、痛覚変調性疼痛と判断できるわけではありません。
腰痛には、椎間板、関節、神経、内臓疾患など、さまざまな原因が考えられます。
実際には、症状の経過や身体所見などを含めた、医学的な評価が必要です。
施術の現場で「腰だけを見ても分からない」と感じること
私はこれまで、慢性腰痛の方のお身体を多く見てきました。
その中には、
「腰の筋肉を緩めると動きは良くなるのに、痛みの感じ方はあまり変わらない」
という方もいらっしゃいます。
また、カウンセリングをしていると、
「痛むのが怖くて以前より歩かなくなった」
「腰が心配で、動くたびに身体に力が入ってしまう」
「仕事が忙しく睡眠不足になると、腰痛も強く感じる」
「休日は腰を休ませるだけで終わってしまう」
といったお話を聞くことがあります。
このような場合、腰の筋肉や関節だけを見ていても十分ではないと感じます。
もちろん、こうした特徴があるからといって当院で「痛覚変調性疼痛」と診断することはできません。
ただ、
・どのような動きで痛むのか
・身体を動かすことへの不安はないか
・普段どのくらい活動しているか
・睡眠は取れているか
・仕事や生活で負担が続いていないか
など、身体だけではなく、日常生活も含めて考える必要があるケースは、少なくありません。
慢性腰痛では悪循環になることがあります
腰痛が長く続くと、次のような流れになることがあります。
腰が痛い
↓
また痛くなるのが怖くて動かなくなる
↓
歩いたり身体を動かしたりする機会が減る
↓
身体が動かしにくくなり、少しの動作でも負担を感じやすくなる
↓
さらに動くことへの不安が強くなる
という循環です。
さらに睡眠不足や仕事上のストレスなどが重なると、痛みを強く感じる要因が増えることもあります。
ただし、すべての慢性腰痛がこの経過をたどるわけではありません。
大切なのは、
「痛いから動かない」「動かないからさらに不安になる」
という状態が続いていないか、一度振り返ってみることです
「動かさない」より「できる範囲で動く」
腰が痛いと、
「安静にしていた方がよいのでは?」
と思う方も多いでしょう。
もちろん、強い急性痛があるときや、医療機関から安静を指示されている場合は別です。
しかし、慢性腰痛では、必要以上に身体を動かさない状態を続けることが、必ずしも良いとは限りません。
大切なのは、痛みを我慢して無理に運動することではなく、できる範囲で身体を使うこと
です。
例えば、
・5~10分歩く
・長時間座ったら一度立つ
・無理のない範囲でストレッチをする
・痛みの出ない動作から少しずつ増やす
といった方法があります。
「何分歩かなければいけない」と決める必要はありません。
ご自身の状態に合わせて、少しずつ行うことが大切です。
「痛くない動き」を増やすことも大切です
慢性的に痛みが続いていると、
「前屈すると痛い」
「立ち上がると痛い」
「歩いたらまた痛くなりそう」
など、身体を動かすことそのものに、不安を感じるようになることがあります。
そこで重要なのが、
「この動きなら大丈夫だった」という経験を少しずつ増やすこと
です。
例えば、
「5分歩いたけれど大丈夫だった」
「以前より楽に立ち上がれた」
「今日は腰を気にせず仕事ができた」
といった経験です。
すぐに大きな変化を目指すのではなく、このような小さな成功体験を積み重ねることが、身体への不安を減らすきっかけになる場合があります。
WHOも「一つの方法だけ」に頼らない考え方を示しています
WHOは、慢性一次性腰痛について、一つの方法だけで対応するのではなく、
・腰痛について正しく理解するための教育
・運動
・必要に応じた身体的ケア
・心理的なアプローチ
・薬物療法
などを、その方の状態に応じて組み合わせる考え方を示しています。
つまり、
「腰痛だから腰だけを施術すればよい」
という単純なものではありません。
身体の状態だけでなく、
「普段どのように生活しているか」
「何ができなくなっているか」
「何を再びできるようになりたいか」
まで考えることが大切です。
痛みだけでなく「できること」に目を向ける
慢性腰痛が続いていると、
「今日は痛みが何点か」
ばかりが気になってしまいます。
もちろん痛みの強さも大切です。
しかし私は、
「何ができるようになったか」
も同じくらい重要だと考えています。
例えば、
「以前より長く歩けた」
「朝、楽に起きられた」
「仕事中に腰を気にする時間が減った」
「休日に出かけられた」
「趣味を再開できた」
といった変化です。
痛みをゼロにすることだけを目標にすると、小さな身体の変化に気づきにくくなります。
生活の中でできることが少しずつ増えているか、という視点も大切です。
こんな症状がある場合は、まず医療機関へ
長く続いている腰痛でも、すべてを「慢性腰痛だから大丈夫」と判断してはいけません。
特に、
・安静にしていても強い痛みが続く
・急速に症状が悪化している
・発熱を伴っている
・脚に力が入りにくくなっている
・しびれが急激に強くなっている
・排尿や排便に異常がある
・転倒や事故のあとから強く痛む
といった場合には、まず整形外科などの医療機関を受診してください。
痛覚変調性疼痛という言葉を知ったからといって、
「病院で異常が見つからないから、神経が敏感になっているだけだろう」
と自己判断することもおすすめできません。
必要な検査を受け、重大な病気やケガがないことを確認することが大切です。
当整体院でお手伝いできること
当院では、痛覚変調性疼痛そのものを、診断することはできません。
一方、医療機関による緊急の対応が必要ではなく、慢性的な腰痛が続いている方に対しては、
・どの動きで痛みが出るのか
・筋肉や関節はどの程度動くのか
・姿勢にどのような特徴があるのか
・歩くときに身体をどのように使っているのか
・日常生活でどんな負担が続いているのか
などを確認します。
そのうえで、身体への負担が少ない施術や、ご自宅でできるセルフケア、姿勢・歩き方などをお伝えしています。
大切にしているのは、
「腰だけを整えること」ではなく、腰を気にせず生活できる時間を少しずつ増やすこと
です。
→ 慢性腰痛に対する当院の施術について詳しくはこちら
まとめ|長引く腰痛は「腰だけ」の問題とは限りません
長く続く慢性腰痛には、筋肉、関節、神経など身体の状態だけでなく、
・活動量
・睡眠
・仕事や生活上の負担
・痛みに対する不安
・身体の使い方
など、さまざまな要素が関係することがあります。
その中で、組織の損傷や神経の障害だけでは痛みを十分に説明できない場合に考えられる仕組みの一つが、痛覚変調性疼痛です。
ただし、
「長く痛い=痛覚変調性疼痛」
ではありません。
まず必要な医学的評価を受けたうえで、
「痛い場所はどこか」
だけではなく、
「痛みのために何ができなくなっているのか」
そして、
「これから何をできるようになりたいのか」
にも目を向けてみてください。
慢性腰痛との付き合い方を見直す一つのきっかけになればと思います。
この記事を書いた人
竹田 勝
たけだ整体院町田 院長/整体師
慢性的な腰痛や肩こりでお悩みの方を中心に、筋肉や関節だけを見るのではなく、姿勢、身体の使い方、歩行、セルフケアまで含めたサポートを行っています。
JR横浜線・小田急線 町田駅から徒歩4分。
→ 院長プロフィール